「昭和ドキドキ」(戦争の記憶を後世に伝えるためのサイト)で紹介 140
                         Part1に戻る    Part2に戻る

駒宮真七郎『船舶砲兵』  

  血で綴られた戦時輸送戦史

    出版協同社、1977

 

 

 

戻る

「まえがき」に太平洋戦争における「船舶砲兵」の意義と実態が要領よく説明されている。納得できるのは次の事柄である。

 

太平洋戦争はそれ以外の幾多の戦争と違う特徴がある。大陸での陣取り合戦ではなく、海洋を舞台とした要地の争奪戦である。海の彼方にある要地を確保するには敵前上陸を必行の課程とする。

 

戦略的には海洋陣地作戦であった。

これには補給線の設定が必要になる。そのためには制海権の確保が必要になり、また制海権を確保するには制空権の確立が絶対的条件となった。

 

必要船舶量が膨大であった。作戦上の弱点は船舶であった。

輸送機関としての船舶は武装されていないので、兵装と砲兵隊を必要とした。

 

現実には船舶ほど救われないものはなかった。

本来、輸送が任務であり、敵側の妨害を避けるための装備がなされていなかった。せめて伏敵をかわすために高速化、レーダーによる索敵手段を備える必要があったが皆無であった。

 

輸送船団の闘いの後を回顧し、英霊に対する敬意と冥福を捧げるためにこの本は出版されている。

<参考>戦時における日本船舶喪失量2568隻(100総トン以上)、2316隻(500総トン以上)船舶運営会資料

船舶部隊は大小あわせて280余り、総兵力は約30万名に及んだ。

船舶の目的地到達率は50%以下で、沈没原因の56.5%が潜水艦の雷撃による。

死亡した場合は水葬となり、永久に墓標が立つことはなかった。

 

 

輸送船が敵潜水艦に体当たりして撃沈したという勇ましい話が、戦時中の少年雑誌に載ったことがあった。胸のすくような勇ましい話であったので今でも記憶している。

 

「ワレ、潜水艦ヲ撃沈セリ」という一節が書かれている。著者は船名を確認できなかったと書いているが、土井全二郎『栄光なにするものぞ』によると、日本郵船の松本丸、日東汽船のタンカー・宝洋丸、辰馬汽船の辰鳳丸が潜水艦を撃沈している。

 

このような事例はごく稀な話で、制空権制海権を失った戦争の後半期には船舶輸送はあまりにも悲惨であった。開戦準備の段階で兵站力がここまで低下すると想定した指導者はいなかったのではないか。

この本はその記録を残すべく制作されたものであろう。内容は太平洋全域に及ぶ詳細な記述が満たされている。

マレー方面、比島、蘭領インドシナ方面進攻作戦、

アリューシャン、ミッドウェー進攻作戦、ニューギニア輸送作戦、

ガダルカナル島強行輸送作戦(最もページ数が多い)

レイテ特攻輸送作戦

ハルゼー台風の襲来

凄絶!! 南号作戦

など地図を片手に読まなくては理解がおよばない。

墓標なき鎮魂の海に眠る船員や船砲隊の慟哭する声や雄姿が見えてくる。

 

すでに勝運から見放されながらも、血みどろの船舶輸送を続けたため、各域で洋上玉砕というべき状態に到った。戦時には被害の中身は明らかにされなかった。それは状況が敵側に知られてしまうからである。

著者・駒宮真七郎氏は船舶砲兵第二連隊に所属していただけに詳細な記述に満ちている。

 

(2012.07.30)  森本正昭 記