「昭和ドキドキ」(戦争の記憶を後世に伝えるためのサイト)で紹介 103
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三野正洋『戦争の見せ方』

−そういうことだったのか!戦争の仕組み−

  ワールドフォトプレス、2007

 

 

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この本が面白いのは、たくさんの写真が挿入されているだけではない。

社会科学の法則でもあるかのように、断定的な言い方が随所に見られる。たとえば、

「20世紀の初頭から現在まで、最高指導者が在位のまま、戦争において正式に降伏した例は、大日本帝国だけである。」というような断定的なきめつけが書かれていることだ。それを証明するかのように、写真が使われている。どれも何度も目にしたことのある有名な写真からなっている。

「マッカーサーは自分のための演出写真の撮影を行なった。このような軍人は歴史を振り返っても、ダグラス・マッカーサーただ一人だった。」というのもある。

I shall return で有名なフィリピン再上陸の写真は、2日間3回やり直しさせた、やらせ写真。厚木に降り立った写真も何度も何人ものカメラマンを配置してそれを撮らせたという。これほどまで、自己顕示欲の高い人物も珍しいというものだろう。

彼の軍歴には成功と失敗が混在しており、必ずしも優れた軍人とは言い難い。それにもかかわらず、アメリカ軍は彼に最大級の評価を与えているのは、その成果なのだろう。

 

類型に分けて見せるのも、著者の特徴である。

戦争状態になると、国の指導者は、国民を鼓舞する演説をくり返した。戦意を高めるためである。演説の仕方の類型には3種類ある。

1絶叫・獅子吼型 … ヒトラー、ムソリーニ、東条英機、枢軸国の指導者はこの型に当てはまる。

2説得型 … イギリスのチェンバレン、チャーチル、アメリカのルーズベルトはこの型

3沈黙型 … ソ連のスターリンはその典型である。国民に直接話しかけることはしない。

 

政治的宣伝(プロパガンダ)を組織的に戦争に取り込んだのは、ナチス・ドイツで、ゲッペルス宣伝相が専門家として活動していた。ゲルマン民族の誇りを最大限に高揚させた。この点では恐ろしいほどの技量を発揮した。ついに狂信的な領域に国民を追い込んでしまうのである。

「国家という組織は、必要ならば情報をねじ曲げ、主張する正当性のために、平気で嘘をいう」。その事例がいろいろと紹介されている(戦果、英雄、一枚の写真など)。

一国の政府が民間の広告宣伝企業に、プロパガンダを委託することも行われている。国内外の世論を誘導するようなことは、今後ますます広がりを見せるだろう。

 

『あとがき』にいたって著者の真意に出くわす。

“わが国の憲法前文に記されている「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼し…」などといった幼稚な言葉を信じている人など、他国には誰一人存在していないのではないだろうか。/あらゆる国家は、自国の利益、権益保全のためなら嘘をつき、他国の人々、いや自国の人々さえ平気で騙すのである。/そこにはパブリシティが大きな役割を果たしている。”

“日本国民が画餅にすぎない理想論からの脱皮をはかり現実に目を向ける第一歩になれば”と書かれている。議論の糸口にはなろう。

どこまでも戦争がなくならない人間社会や国家という境界に訣別するにはどうすればよいのかを考えている“幼稚な?”本サイトの立場からは、現実はほど遠いものがある。

(2009.07.20)  (2017.04.10)  岳人記