「昭和ドキドキ」(戦争の記憶を後世に伝えるためのサイト)で紹介 165
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米谷ふみ子 
「目覚めよ! 75歳以上の年寄り」
朝日新聞
2014.02.04(夕刊)

米谷ふみ子 
「年寄りはだまっとれ!?」
岩波書店、
2009



1930年大阪市生れ、作家、画家。1960年渡米。作家ジョシュ・グリーンフェルドと結婚。ロスアンゼルス在住。

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 朝日新聞の文芸・批評欄にこの寄稿文は掲載されていた。米谷さんは歯に衣着せぬ鋭い批判で知られる。掲載の時点で75歳以上の人は戦争体験がある世代である。戦争体験者は毎年減少し、あの悲惨な戦争の記憶がやがて日本人から消えていってしまう。これは大変だ。いまこそ発言しなくてはならない。

冒頭に「米国の著名なインタビュアーであるチャーリー・ローズ氏がテレビ番組で、「彼は日本の平和憲法を変え、強い軍隊を作りたいと考えている」と言うのを聴いた。彼とは安倍晋三首相のことである。」

安倍首相に矛先は向けられている。

どうして指導者になると、軍隊や核兵器を持ちたくなるのだろうか?他人の持ち物を自分もほしいと思うのは自信のない証拠。放射能は、指導者であろうが罪人であろうが敵味方に平等に降りかかる。」

 

同じ紙面の「終わりと始まり」で池澤夏樹氏は「係争の地域では武装した艦船や航空機が小競り合いを続け、政府間に意思疎通の回路がない。これは偶発戦争に繋がる構図である」と指摘している。それを第一次世界大戦の教訓を事例にして説明している。イスラム国問題では、もはや第三次世界大戦が始まっていると主張している人物もいる。いまこそ、

「日本の指導者には平和憲法をこそ、世界に誇れるものである、世界に自慢してもらいたい」ものである。

「戦争を覚えているのは75歳以上の人々である。次世代の無知は、一重に、その残酷さを語り継がなかった私たち老人の責任である」「記憶力を保つために麻雀をしている年寄りが多くいると聞いたが、あの悲惨な戦争の体験を思い出し、繰り返し若者に話す方が、よっぽど記憶力活性化の役に立つのではないか。」これが米谷ふみ子の主張である。

「戦中の『女は黙まっとれ!』を思い出す。年寄りよ!遅くはない、戦争の残酷さを赤裸々に語ろう」と。

この寄稿文は1年も前のものである。いまや急速に軍事国家が再生されようとしている。民主主義では国会での多数決によって、法案が次々と決まっていく。現状では1政党が絶対多数を保持しているので、過去には憲法違反と言っていたことまでも閣議決定してしまう。

 本当にそれでいいのだろうか。現在の国会議員が選ばれたのは1票の格差を顧みない憲法違反状態においてである。裁判所が各地で違憲状態または違憲の判決を出している。投票に参加した有権者は過半数を下回るし、投票率は全国的に次第に低下しつつある。政治は国民にとって魅力を失っているからである。

「戦火をくぐったことのある人々は、絶対に戦争を再び起こしたいとは思いません。それでも起こしたい人は、サディストか異常な人と考えてもよいと思います。」と米谷氏は主張する(「年寄りはだまっとれ」P4、岩波書店)。戦火をくぐったことのない人々ばかりが前面に出て来て、言葉ばかりの積極的平和主義を主張している。


(2015.04.28)   森本正昭 記