「昭和ドキドキ」(戦争の記憶を後世に伝えるためのサイト)で紹介 016
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阿川弘之 『山本五十六(上)(下)』
連合艦隊司令長官
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私は暗号技術について調べているとき、たまたまこの本の中に戦時における暗号に関する詳しい記述があるという紹介文を見た。開戦直前における日米交渉で、ハルは日本大使が持ってきた最後通告の内容をあらかじめ暗号解読により知っていたことが、後に明らかにされている。さらに山本長官が前線を激励のため訪問するとき、暗号解読による待ち伏せ攻撃にあう。ブーゲンビル島上空において戦死されたときの状況については、暗号解読がらみで多様な推論を著者が行っているところは圧巻である。さらに搭乗機を撃墜したのは誰かという問題でも結論は単純に決めがたいなど興味を引かれる内容である。 当然それ以外のところにも目を向けることになった。なにしろ山本五十六といえば太平洋戦争における日本最大の英雄であり、聖将とも言われていた。日本の全国民といってよいほどの多数から崇拝されていたし、外国からも注目されていた人物である。昭和18年6月5日、元帥山本五十六の国葬が行われた。伝記物として書かれた本もかなりの数に及ぶ。その中でも本著は第一級の作品であると紹介されている。 私はこの小説を詳しく読んだのは2回ある。一回目、読んでみると、少年時代に抱いていた偶像が壊れていくのを感じた。妻と子供4人がいるのだけれど家族に対する記述はほとんどなくて、新橋の芸者との話や博打が何よりも好きという記述が随所に出てくるのには閉口したからである。遊びが遊びの限界を越えている。人物の判断に花柳界での遊び方や博打好きかどうかを基準にしていたらしい。外国勤務、艦隊勤務の長い海軍の軍人とはこういうものだという解説記事も見たのだが家族とは疎遠であったのか、著者があえてこのような記述法によって人物像を浮き立たせるようにしたのかは分からない。 二回目、読んでみると、その中に女性との関係や博打好きであることを含めて山本の赤裸々な人間像を描いているが、なるほどいろんな階層の人たちから親しまれ、敬愛された人物像であることがよく分かった。 ロンドンの軍縮条約の時の交渉経過が、詳しく述べられていている。2・26事件の時の海軍の対応の仕方、日独伊三国同盟や対英米戦争に反対しながら、連合艦隊司令長官に任命されてから、真珠湾奇襲の構想を固め、ついに戦争開始の引き金を引かざるを得なかった苦渋の選択に胸打たれるものがある。
(2006.11.05) (2017.03.12) 森本正昭 記 |