「昭和ドキドキ」(戦争の記憶を後世に伝えるためのサイト)で紹介 080
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諏訪兼位『科学を短歌によむ』
          岩波書店、
2007

 

 

 

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まず初心者向けに和歌と短歌の違いを説明している。素材として、科学者が詠んだ短歌を紹介し、短歌をよむ(読む、詠む)楽しさと効用を解説している。

この本を読むと、短歌を自分もやってみたくなる強い誘因を感じる。自分にも短歌を作ることが容易にできそうな気がするのである。

紹介されている科学者としては、湯川秀樹、近藤芳美、小藤文次郎、志賀潔、石原純、大塚弥之助、湯浅年子、上田良二、藤田良雄、森鴎外、米川稔、飯島宗一、林田恒利、前野義昭、斎藤茂吉、上田三四二、岡井隆、永田和宏、小池光、栗木京子などである。

「彼らの歌には科学者としての独特の視線を感じる。」という。著者自身も地質学者でありながら、すぐれた歌詠みである。「朝日歌壇」での採歌数が実に200首を超えているのには驚かされる。

歌を詠むとは「自然を驚きの目でとらえ、人びとや社会を新鮮な目でとらえ、自分自身を深い目でとらえる作業だ」著者は考えている。

私がここで取り上げたいのは、先の戦争における著者らの関わりの中で詠まれた短歌についてである。短歌が31文字に凝縮された感動と叙情の世界であることから、読む者に戦争体験を端的にかつ情感を込めて伝えることができる。

どのような感動を伝えているかは、詠み人の世代によって異なる。戦争に駆り出された者、銃後の守り、動員に汗を流した者、肉親や師弟の死の記憶に生きた者では感動の種類が異なるかも知れない。

ここでは著者の挙げている短歌から、私にわかりやすく感動を与えてくれたものを以下に取り上げてみた。

 

 ヒロシマを直前に過ぎナガサキにひと日おくれし学生我は
                       諏訪兼位

 偵察機「彩雲」この手でつくりたり特攻機として消えし悲しみ
                       諏訪兼位

著者は学徒動員で、飛行機の生産を支援し、ときに特攻基地の飛行場の建設にたずさわる。2回の原爆をすり抜けた体験を歌にしている。


  春雨に豊後水道煙りをり航きて還らぬ「大和」まぼろ
                       前野義昭

前野の世代は太平洋戦争で多くの人々が戦死した。


   夜を徹し重き轍(わだち)の音ひびきかりそめならぬいくさ迫りぬ
                       湯浅年子

夜通しドイツ軍の戦車が重い轍の音をひひかせて、通り過ぎていく。本格的戦闘が迫っている様を描いている。この後、湯浅はパリを脱出しドイツを経て帰国している。

 
  しばらくの講義惜しみて聴くといふ葉書にも心つつしむ
                       飯島宗一

学徒出陣することになった友人からの葉書を受け取ったときの歌。


  
特殊爆弾これで防ぐと乏しきを白きシャツ縫いおりき夕暮れの母
                       清水大吉郎

白い衣服を身に着けていれば、原爆から身を守れるという噂が広がった。

 

未来を憂える人もいる。

  無人戦車無人地球の街を野をはたはたと嗤うごとくゆきかふ
                       坂井修一
  おそらくは電子メールで来るだろう2010年春の赤紙
                       加藤治郎

平和を詠む歌

  憲法九条創りし高き理想あり代わりうるにいかほど理想のありや
                       諏訪兼位


(2008.05.10) (2017.04.05)  森本正昭 記