「昭和ドキドキ」(戦争の記憶を後世に伝えるためのサイト)で紹介 066
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三咲光郎 『砲台島』
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戦争もののミステリーである。ミステリーだから物語の筋書きをここに記述するのはルール違反である。 私がかねて知りたいと思っていたのは、憲兵という存在、それから軍と警察の相容れない関係である。この本はフィクションであるが、それをよく表現しているように思えた。 主人公は警察官になりたての瀬名弘之。昭和20年、空襲に遭った和歌山で、瀬名は大事件に巻き込まれる。砲台島の砲兵3名が謎の焼死を遂げる。その船が漂流する。瀬名は捜査のためにやってきた怖ろしい憲兵中尉と、こともあろうに共同捜査をする羽目に陥る。 警察と憲兵隊とどちらの側から見ても、「自分は端っこに追い払われ、事件の核心から遠ざけられた存在だ。しかし、その両方に関わっているのは自分だけだ。全体を一挙に解決できるのは自分しかいない」と感じる。しかし現実は憲兵、軍、警察官は相容れない関係にあり、「お互いに相手の足を踏まんように気をつける」それしかないのだった。 ここで話題がそれるが、「ゴーストップ事件」に触れておかねばならない。ときは1933年、大阪の天神橋6丁目交差点でこのたわいもない事件は起こった。陸軍の中村一等兵が信号無視をした。徒歩である。それを交通整理中の曾根崎警察署の巡査に咎められる。兵は「軍人は警官の命令には従わない」と反論し大喧嘩となる。その後、憲兵隊が「公衆の面前で軍服姿の帝国軍人を侮辱したのは断じて許せない」と警察に抗議した。警察も「軍隊が陛下の軍隊なら、警察官も陛下の警察官である。陳謝の必要はない」とがんばった。この事件は憲兵司令官や陸軍省、さらに天皇陛下にまで伝わったという。 この事件後、現役軍人に対する行政処置は警察ではなく、憲兵が行うこととなり、軍部が法を超えて次第に国家の主導権を持つ結果になったという。憲兵の恐ろしい姿が台頭してくるのである。 この本に戻ろう。もう一つ、特高警察が登場し、戦時の思想犯を弾圧する。ここでは英文学、西洋演劇を研究していた学生、自由主義的な演劇人が根こそぎ検挙されるのである。物語は深くこのことと関係し、やがてその亡霊であるかのように問題の憲兵中尉が登場する。 和歌山の空襲は焼夷弾攻撃にしては多大な死者と被害を出している。これは史実である。それを背景に物語は展開するが、フィクションである。終盤に近くなって、現実的ではない話が物語の展開に登場してきて面白味がそがれる。 戦争末期の警官の心情をよくとらえている個所を最後に挙げておく。 「自分のしていることが馬鹿馬鹿しかった。何万の人間が無意味に死んでいくなかで、捜査などといい、ほんのひと握りの死の因果関係を追っている。無数の焼死体が転がっているなかで、わずか何体かの死体について、誰の死体だとか、死因は何だとか、犯人は誰だとか、調べ歩いている。/何をやっているのか、自分は。/いったい何だろう、この世界は」と なお砲台島とは和歌山県の友ヶ島のことらしい(三咲氏のHPより)。明治以来の軍事要塞であり、いまなお当時の姿を残している。
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