「昭和ドキドキ」(戦争の記憶を後世に伝えるためのサイト)で紹介 001
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小野寺百合子 『バルト海のほとりにて − 武官の妻の大東亜戦争』 
     共同通信社 1985年
 

 


NHK終戦スペシャルドラマ『百合子さんの絵本』、2016年7月30日


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著者の夫、小野寺信陸軍少将は昭和10年ラトビア公使館付武官。昭和15年スウェーデン公使館付武官を任ぜられている。武官とはどのような仕事をするのか、そしてその妻の役割はどのようなものなのか。この本を読むと想像をはるかに超えた重大な任務であることに驚かされる。

この小説の冒頭は昭和21年1月、マッカーサーよりの帰国命令が出てストックホルムからイタリーのナポリまでバスで欧州を縦断する。その時の体験が詳しく描写されている。敗戦国は悲惨である。ドイツを通過するとき廃墟の中に疲れ切って栄養不良の人々の青ざめた表情、母親が苦心して作ったであろう新聞紙で作ったコートを着ている子供を眼にするあたりで、日本の戦後の記憶が蘇ってきて目頭が熱くなった。

武官の責任の内一番大切なのは暗号書や重要文書の保管である。保管してある金庫の管理、外出するときは夫と妻が暗号書を2つに分け腹巻きと着物の帯芯に入れて持ち歩くことや、暗号文書の作成、解読など第三者に任せることのできない難しい仕事を妻が担っている。夫の活動は武官仲間との親交、対ソ・対独情報の交換、諜報活動などは昭和史の裏側を見る思いで迫力がある。

小野寺氏の情報収集能力は際立っている。この時期、小野寺氏は北欧の中立国から見たヨーロッパの動向を日本の参謀本部に忠実に報告しているのだが、ほとんど無視されている。破竹の勢いであったドイツの次の標的は英本土上陸か、ソ連侵攻かという重大な判断を必要としているとき、小野寺武官はソ連侵攻を見通して東京に報告しているが、無視されてしまう。さらに日米開戦前夜にあってすでに同盟国ドイツは独ソ戦で戦力低下の兆候を見て取った小野寺氏は必死に開戦反対の意見具申を東京に送り続ける。しかしドイツ優勢を信じ切っている日本の中枢部はまったく無視する。もし日本の戦争指導者の中に小野寺情報に耳を貸す余裕のある人物がいれば日米開戦は避けられたのではないかとさえ思える。

  2016年7月30日、NHK終戦スペシャルドラマ『百合子さんの絵本』が放送された。
このドラマでは陸軍武官・小野寺夫妻の戦争がテーマになっている。戦争をやめさせようとし、努力した武官夫妻の記録でもある。何も後悔することはないとそういう自分に誇りを感じると回顧するところが感動的である。薬師丸ひろ子、香川照之主演。
この絵本は百合子さんの翻訳童話であるようだが、遠い国で不思議な 龍と戦ったお話になっている。

 

 

(2006.09.15) (2017.03.06) 森本正昭 記