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  潮合一歩   ミニ小説 『この先、いいことあるぜ』 

2015.03.04
名古屋市在住 

「この先、いいことあるぜ」     潮合一歩

 

最近いい人ぶってるんだ。

オレ、そんな人間じゃないんだけど。

電車に乗って座席をお年寄りに譲るとか、

喧嘩弱いのに喧嘩の仲裁に入ってみたり、

カネがないのに、進んで寄付をしたりする。

オレはそんな人間じゃないんだぜ。

 

底辺に沈んでいる人たちが集まってボソボソ話をしているとき、

この先、いいことあるぜ、きっとな、と言って出て行く人がいた。

オレも連れて行ってくれと言いたいところだが、

反対側の扉をゴツンと叩いて、オレは出て行った。

 

医者がオレの瞼を開いて瞳孔を覗きやがった。

オレはこの時とばかりに、医者を睨み返してやったのさ。

 

市役所から公務員がやってきた。

苦労しましたが、生活扶助料下りました。オメデトウございます、と言いやがったのさ。

何がオメデタイのだ、それに苦労をしたのはお前じゃなくて、このオレじゃないか。

でもオレはそんな不平を言う人間じゃないんだぜ。

この先、きっと良いことあるからな。