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内藤孝雄
   「中国で暮らす」
    私の主張

    1>中国に慣れても、やはり中国は異国であるという心構えを忘れない
    2>抗日を理解する
中国 江蘇省 蘇州市

JINSTAGEで[ネイトン語録]
発信している。

中国で暮らす

1>中国に慣れても、やはり中国は異国であるという心構えを忘れない。

 

中国に来て、やがて中国人に慣れ、どこでも食事ができて、何でもできるようになると、「中国生活は、簡単だ」と思うようになります。しかし、何でもできるようになったその頃、思わぬトラブルに巻き込まれたり、思わぬ失敗をしてしまうのです。

 

そうならないためにも、中国は、あくまでも「異国である」ということ、「日本とは違うのだ」ということを忘れないで、生活することが肝要なのです。

 

私が中国に来た11年前と現在では、いろいろな面で大きな違いがあります。11年前には、日中関係が大変良かった時代です。多くの日本人や日本企業が、何の疑いもなく、「これからは中国だ、そうだ中国に進出しよう」と、純粋に両国の発展だけを願って、また友好的な気持ちだけで、中国にやってきました。

 

それゆえ11年前当時は、どこへ行っても日本人に対して、中国人からウエルカム(熱烈歓迎)のムードがあり、日本人にとって中国は本当に暮らしやすかったわけです。不幸なことに、現在は日中関係の悪化により、さまざまなリスクを意識しなければならなくなり、精神面においても暮らしにくくなってしまいました。

 

その変化した日中関係の中で、どうやって中国で暮らしていけばよいか、最も強調したいことは、日本人としての「心構えの大切さ」です。

 

最近の日本のインターネットニュースの論調を見る限り、悲しいかな、なぜか中国に対する日本人の「上から目線の論調」ばかりです。中国で生活をしていない日本人が、日本の良さをネット上でアピールし、中国人に悟らせようとする意図は良くわかりますが、実際は、そのアピールは全くの逆効果なのです。

 

中国には中国4000年の歴史と、表面化しない中国人の潜在的な中華思想がこびり付いています。それゆえ、中国はあくまでも「異国」であり、根本的な部分においては、日本人の考えに同化されることはないのです。

 

もちろん、日本人の良い考え方や技術は学習し、採り入れて行きます。また、日本人とも大変親しくなります。だからといって日本人の考えに同化しているわけではないのです。中国人と日本人には、それぞれ異なった民族の思考が根本にありますから、お互いがその思考を尊重し合って、思いやりをもって行動していくことがなによりも大切なのです。

 

最近、日本のネットのニュースでは、中国と日本の違いを挙げて、逆説的に日本をアピールした記事ばかりが目立ちますが、実際に中国で生活している中国人はそれらのニュース記事を全く見ませんし、関心すらないのです。

 

日本は、中国を過剰に意識し、中国と日本を比較して、中国も日本のようになってほしいという強い願望があります。しかし、中国と日本を比較すること自体が間違いで、日本は日本、中国は中国、全く違う思想と文化の「異国」なのです。まず、そのことを理解することが肝要です。もし理解できたら、中国での生活や、事業や、仕事のすべてに対して、肩の力が抜けて楽になり、そこからすべてが良い方向に向かって行きます。

 

2>「抗日」を理解する

 これは、私が11年間の中国経験の中で、日本にいる日本人に最も伝えたいテーマです。

 

また、中国に住む私たちも、好むも好まざるも、自分の職場が中国にあり、中国に来て仕事をしながら生活を送っている以上、この問題を避けて通ることはできません。

 

「親日」は非常にわかりやすい言葉ですが、「抗日」は概念的に理解できても、その言葉の深い意味を理解できないのが私たち日本人です。ほとんどの日本人は「抗日」を「反日」とほぼ同じ意味に理解しています。しかし「抗日」は「反日」とは全く異なります。日本人の「抗日」の理解力の無さが、日中関係が永遠に改善されない原因です。

 

 中国の領土は、中華民族が支配してきたと言う立場では、4000年前の中国文明の発祥の時代から、中国エリアの領土は元々すべて中華民族のものです。しかし過去においては、戦争により、香港や台湾が一時諸外国の植民地となったり、独立自治をして来ました。その後、近年になって香港や台湾も再び中華人民共和国(中国)に返還され、国際法上はすべて中華人民共和国(中国)の一部となりました。中国政府は住民の反発や社会混乱を防ぐために、香港も台湾も特別区の扱いにして、現在も独立した自治にしていますが、将来に至っては、中国の政権下に吸収されていくのは、世界的客観的な立場においては自然なことで、仕方がないことなのです。

 

 1972年に沖縄がアメリカから日本に返還されたとき、沖縄は台湾や香港のような強靭な独立自治の力がありませんでしたから、日本政府がすんなりと沖縄を日本国家に吸収できました。もし、沖縄が強靭な自治力を持っていたら、日本政府の方針による沖縄のアメリカ軍基地も存在していなかったと思います。

                                                                         

 日本は1900年代に中国の領土を植民地化するために、たびたび中国に戦争をしかけました。そして日本は、中国に満州国を建国した時代もありましたが、第2次世界大戦の無条件降伏により、日本は初めて敗戦国となり、すべてを手放しました。中国人にとって「抗日」とは、簡単な言い方をすれば、「勝手に自分の家に土足で入ってくる日本人を追い出すため、筆舌に尽くしがたい苦労を重ねてきた中国人の熱い思い」なのです。この熱い思いを歴史上から消してはいけない、というのが中国人の「抗日」思想なのです。

 

 中国全土に亘り、各地に建てられた「抗日記念館」なるものは、その民衆の熱い思いを絶やしてはいけないとする中国政府の意思表示の一つなのです。中国の小中学校において、この「抗日」に対する思いを若い世代に伝えるために、どのような教育がされているか、私たち日本人は知る由もありません。この「抗日」については、小中学校においてしばしば講演が行われ、学生たちは涙を流しながら聞いています(特に地方の小中学校)。それゆえ、中国人の心の奥底には潜在意識として「抗日」思想があるのです。

 

中国の小中学校で行われる「抗日」を伝承する講演のネット動画を見ることもできます。

 

昔から、どんなに中国人と親しくなっても「絶対にしてはいけない話題」があると言われています。その話題とは、「歴史に関する話題」です。もし、皆さんが中国人と親しくなって中国人の親友や彼女や彼氏ができて、心が通い合ったとしても、この歴史の話題だけは絶対に避けてください。もし、中国人と結婚して生活が始まったとしても、夫婦間でもこの歴史の話題だけは避けてください。身近な中国人と、歴史問題の議論の余地はありません。歴史問題は中国人の心の中に眠る潜在意識の問題ですから、議論すらできないのです。

 

私たち日本人は、日本で生まれ育っています。日本人の持つ常識は、日本人の歴史観の中で養われています。日本人は「自分が知る常識や歴史観は、あくまでも日本人思考の範囲内である」ということを知る必要があります。悲しいかな、日本のどんな立派な知識人や学者や政治家であっても、日本人思考の範囲内ですから、この問題を客観的に捉えることはできません。

 

 日本人が世界的な客観性に欠ける原因は、報道機関にあると言えます。日本の報道は世界的な視点の下では客観性に欠けており、諸外国の報道機関と同じで、大差はありません。つまり、自国の政府の圧力によって報道は常に制御されていて、政府に不利な報道はシャットアウトされてしまうのです。

 

先日の625日の沖縄県民の安倍総理への激しい抗議活動は、日本ではテレビ報道されません、日本のインターネット上ですら報道されません、ところが中国を始め諸外国では、大きく報道されています。大変残念ですが、現在、日本には「報道の自由」は無くなったのではないでしょうか。その原因としては、テレビ報道も、新聞報道も、インターネットの報道も、特定の資金力のある権力者・団体の力により、マスコミ報道が支配制御されるようになったことが原因です。そしてその各メディア報道を支配制御できる権力者・団体が世論の方向づけをしています。

 

現代においては、ビックデータを支配制御できる資金力のある権力者・団体が世論をリードしています。当面、この資金力のある権力者・団体がメディアを支配制御するという現在の体制が変わる見込みはありませんから、今後も日本は世界的視点から客観性に欠けた状態が続くということになります。

 

 70年前の日本政府は、世論を支配制御して国民に是非を言わせず、戦争を正義として、戦争に突き進みました。当時日本は戦争に勝利することしか考えられず、戦争を否定する少数派は非国民として扱われました。今日の「軍事力には軍事力で対抗する」と言う考え方は、1945815日の終戦の時点で、本当に愚かなことであるということに気づき、「智恵」が身についた私たちでしたが、「喉もと過ぎれば熱さを忘れる」のことわざの如く、最近、日本も些細な国際間の衝突から愚かな戦争へと発展しかねない恐れが出てきました。

 

 中国人にとっては、潜在意識にある「抗日思想」が、日本人が思う「反日」とは全く異なる、と言うことをもっと日本にいる日本人に知って戴きたいです。と言っても、日本にはそれを理解する文献も情報も全くありません。現在は非常に残念なことですが、「抗日」を理解する手段がないのです。また、中国で日々平凡な生活をしていると、「抗日思想」を理解することなど、考えもつきませんが、本当に中国を理解しようとする日本人であるならば、中国人の「潜在意識にある抗日思想」を,深く理解することが必要です。

 

 2012年の秋、尖閣諸島の国有化により、最も中国で親日的と言われてきたこの蘇州の地でもデモ隊による壊滅的な破壊行為が発生しました。おそらく、それが予想できた日本人は、ほとんどいなかったのではないでしょうか。予想できなかったその理由は、日本人がこの中国人の「潜在意識にある抗日思想」を全く理解していないことです。尖閣を国有化したことが悪いのでは無く、強引にやった「やり方」が悪いのです。石原慎太郎氏を中心とするその「強引なやり方」を「正しいやり方」として、世論を誘導した報道機関に問題があります。

 

日本が尖閣諸島を国有した結果が、当時の壊滅的な破壊行為を引き起こし、今日の最悪な日中関係の結果に繋がる、という予測ができていた人は、当時、日本政府から左遷に等しい対応で退任させられた元中日大使の丹羽大使ぐらいかと思います。当時の丹羽大使は、中国人の潜在意識にある「抗日」思想を深く理解していた数少ない日本人の一人だったので、「日本が尖閣諸島を国有化したら大変なことになる」と堂々と発言しました。その発言により、日本政府から任期満了と言う「表向き体裁の良い理由」で解任されて、日本に戻りました。

 

 誰かが自分を犠牲にしてでも、この情報を日本人に発信しなければ、日中関係は、根本的な点において永遠に回復しないと思っています。私が中国に来て11年間も生活をしているからこそ、自らの体験として、信憑性の高い情報として、この情報を発信できるのだと思います。最後に今回の「抗日を理解する」の私のこの発信が日中関係の改善の糸口になることを期待して、筆を置きます。

 

筆:ネイトン

 

(ネイトンは内藤の中国語読みです。内藤孝雄氏は「ネイトン語録」を中国で発信していますが、ここではその一部を同氏の了解を得て「勢陽」に転載させていただきました。)

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