森本正昭 ミニ小説「パンダを飼ってみた」 H28年7月登録 |
東京都練馬区 | |
「私、パンダを育てています」 「どういうこと?」 「パンダを飼っているのです」 「動物園にお勤めですか」 「いいえ、私が個人で飼っているのです」 「ウッソー!あんなもの、飼えるわけがないじゃないですか」 「本当です。でも私の家は狭すぎて動き回れないので、お墓に連れて行ったのです」 「するとパンダはお墓が大変気に入ったのです」 「ヘェー、でも遊び場が必要だものね」 「帰りたくないようだったので、そのままにしてきました」 「お墓で結構人気ものになったようだ」 「でも大変なことがとうとう起きてしまったのです」 「どうしましたか?」 「私の両親が離婚してしまったのです」 「パンダと何の関係があるのでしょう?」 「おお有りです。何しろ我が家ではパンダを飼いきれなかったのです」 「負担に耐え切れなかった?」 「その通り、父と母は絶えず喧嘩をしていました。とうとう両親は離婚することになりました」 「みんな、私が悪いのです。それで私はパンダを捨てることにしました」 「どこに捨てたって? まさかお墓ではないでしょうね?」 「その通りです。ある日、私はパンダのあのたれ目の奥に野生の光る目を見、怖くなりました」 「どのようにして追い出したのですか」 「パンダは状況を察知すると、ちょっとニヤッと笑うと出て行こうとしました。 そのとき、ぬいぐるみの着ている毛皮をサラッと脱ぎ捨てると、さようならとも言わずに出て行きました」 「毛皮を脱ぎ捨てたパンダの中身は何だったのですか?」 「それは恐ろしいことに私自身だったのです」 |