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  編集後記
郡 長昭
P181
 

  昨年の私の創作活動は、一昨年患った脳梗塞によって大きく影響を受けた。幸い症状はそれほど重くはなかったが、視力が著しく衰え文字を読むのにルーペが必要となった。73歳になった私に、一気に老化現象がおこってきたのだ。私はどん底の気分を支えるにはものを書くしかないと、前回の「勢陽」で書いた小説「幕末へと逆流する時を求め」(前編)の続きを書き完成させることを自分に命じた。そのようなとき、司法書士の中山一幸氏が2014年に亡くなった田村元先生のことを書いてくれないかという申し出を受けた。私は担当している中日新聞の伊勢志摩版「ふるさと再発見」に田村元氏の伝記を連載することにした。3回ほど書いたとき、中山一幸氏がガンのためこの世を去った。連載を中断しようと思ったが、様々な人の励ましと要望もあり、続けることとなった。
  老年になった私にとってものを書き続けることが、自分を支え生き甲斐であることを改めて確認したのだ。気づけば
私たち「勢陽」のメンバーはほとんどが70歳を超えている。しかし一人として創作のエネルギーが衰えていない。彼らに会うたび、私の中で相反する闘いがおきる。「今後もお前は創作する価値観や覚悟があるのか?」そのささやきに対し、若いころ読んだロマンローランの小説「ジャンクリフトフ」の一節が蘇る。「死すべき汝は死にいけ。苦しむべき汝は、苦しめ。・・しかし汝のなるべき者になれ、一個の人間に…」
この両者の闘いは、おそらく私の死ぬときまで続くことだろう。
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