トーマスよ今日の散歩は長いのだ道草せずに
真すぐに歩け
ぼくはお父さんが耳元で囁くこの一首を聞きながら眠りにつこうとしていた。これからどこへ行くのであろうか。そう思いながら目を開けようと、どれだけ頑張っても開かないのだ。なにしろ眠いのだ。
そう思いながらまた眠りに陥ろうとしたら、お父さんが「トーマス、さようなら」と囁いた。ぼくは、えっさようなら。どういうことなんだ。さようなら。なんて今までお父さんの口から聞いたことはない。
考えているぼくの耳元へ、美兎お母さんの涙に濡れた声が「トーマス、さようなら、道草なんかしないで、ちゃんと歩くのよ。今日は一人なんだから」
と聞こえてきた。
「一人、一人なんて脱走したとき以外に歩いたことはないよ ・・・どうして、一人なんだよ」
深い眠りに着こうとしているぼくの頭は考えた。するとその考えを打ち消すように、「トーマス、さようなら。天国ではみんなと仲良くするのよ」
魚人さんと結婚した羊子さんが、ぼくの頭を撫でながら励ますような凛とした声を出した。
「天国、天国って何だ。ぼくは眠ったままどこへ行くんだ。目を覚まさなければ」
ぼくは必死で目を覚まそうとしたが、瞼は重くて開けられない。これはいつもと違う。今までならどれだけ眠くても、起きようと思えば目はすーと開いたのだ。ぼくは悲しくなってきた。すると今度は魚人さんが、
「トーマス、星になって僕らを見守ってくれよ。さようなら」
優しい声で言ったのだ。
「ぼくが星に、あの夜空できらきら瞬くお星さまに、ぼくが」
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