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  小説 『真夏のシルバー志願兵』
松田實靱

シルバーの夢小説
キーワード.:史跡斎宮の発掘、志願兵
 


  朝、老人たちの頭上にはもう燃えるような陽射しが降り注いでいた。
「フーッ、暑いなあ 、休憩まであと何分ある 」
  鋤簾(じょれん)の手を止めたパチケンがそばにいたサイタロさんに呼びかけた。これで二度目である。パチケンのいつもの作り笑いがすっかり影を潜めていた。
  元次はその日雑事当番で、みんなの掘った土をベルコン(ベルトコンベアー)に上げていた。
「さっき十分だと言ったばかりやないか。今日のお前は変だぞ、早く仕事しろ」
  発掘現場に吹く風がさっきからパタリと止まっている。声を荒げて言い返したサイタロさんの額からも汗が玉となって滴り落ちた。元次もスコップの手を止め目頭に入ってくる汗を拭った。
  五月十日に始まった史跡斎宮跡の第百七十八ー四次発掘調査は、すでに二ヶ月を経てあと一区画を残すのみの最終段階に入っていた。
  重要遺跡の発掘にブルドーザーなどの重機は使えない。機械化している今の日本では、他に類を見ない重労働といえた。今日は中でも一番きつい表土の手堀りをやっていた。
  発掘作業の休憩は午前と午後に半時間ずつあるが、酷暑日にはその間にも熱中症を防ぐために五分間の水分補給を取る。作業員のほとんどが六十五から七十代の高齢者で、今日はその五分間が待ちきれぬほどに暑かった。それでも、昨日までならこのぐらいの暑さで音を上げるヤツはいなかったのにと、元次は思った。
  サイタロさんは最年長で最古参の作業員である。その語気の強さにパチケンが黙ると、あとはもう誰もが無言になって鋤簾を引いていた。
「オイ、いったいまたアイツは何やっとるんや」

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