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  小説 『幕末へと逆流する時を求め』
(前編)
郡 長昭
 


NHK大河ドラマ「龍馬伝」を見終わったとき電話が鳴った。東京の姪からだ。
「叔父さん、うちの先祖が龍馬を襲撃した一員だったことを知っていた?」「なんじゃそれ?」
歴女とよばれるほど歴史好きの彼女が龍馬役のハンサムな俳優に同情した妄想?
「そんなんと違う、実はね。」
姪は長々と話だし、私は煙草に火をつけた。
私たちの遠い親戚にKという歴史小説を書いている初老の男がいる。姪は以前から電話や手紙で彼と交流があるらしい。
彼の最近の調査で、驚くべきことがわかった。私の祖母・たつの実兄が坂本龍馬を殺害した一員だったと言うのだ。私の祖父・郡藤堂茂昭は桑名藩士であり、たつは同藩の小林家から嫁いでいる。茂昭の末っ子が私の父であり、その末っ子の私にとって、祖父母は遠い先祖のような存在で、無論生前の二人に私は会ったことがない。「そんな話、親父やおふくろからも聞いたことなかった
ぜ」
「だから・・・」
姪は早口でしゃべりつづける。龍馬と中岡慎太郎を殺害したのはだれか?最近まで謎であった。しかし戊辰戦争終了後捕虜となった今井信郎の証言により京都見回り組がやったことがほぼ確実とされた。ただ唯一の証拠品であり襲撃現場に置き忘れられた刀の鞘の持ち主と噂さ
れていた見回り組の渡辺篤が、臨終の時「刀の鞘を忘れ残し帰りしは世良敏郎という人物にてー」と書き残した。
しかし見回り組隊士名簿には世良吉五郎という名はあるが敏郎の名はなく、渡辺の書いたものに信憑性が疑われていた。それがKの粘り強い調査により小林たつの実兄・小林甚七重幸が、見回り組の隊士世良吉五郎の養子となり世良敏郎と名のったことを突き止めたのだ。

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