平成26年4月発行 表紙画 『波切にて』/郡 楠昭


松田實靱     小説  『逃げ切る』    39頁    戻る

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 三日掛けて、やっとナルガクルガを樹海の最深部の木の上に追い詰めた。
ナルガクルガは「迅竜」の異名を持つ飛竜種だ。全身が黒毛に被われていて、
暗がりに潜んで獲物を狙う攻撃性の高いモンスターなのだ。

毒を服ませ、双劍の二段階連続技で何とか脚を引き摺る状態にまで弱らせてある。
あとは背の高い草木エリアにおびき出し、落とし穴で動きを封じればいい。

ナルガクルガを拘束すれば素早く捕獲用の麻酔弾を撃ち込んでやる。
そうすればヤツの動きは極端に鈍るはずだ。
うまくいけば貴重な迅竜の上黒毛もはぎ取れるだろう。
ひょっとすると鋭利な牙も手に入るかも知れない。

コウタはここでフーッと一息吐くと、BB14(コウタのハンター名)をポッケ村の
自室に戻して、そのあとデーターをメモリースティックに保存してゲームを止めた。
時計はもう十二時を回っている。朝からデスプレイを見詰めていただけに左の目がかすんできた。
もうそろそろ限界で、そのうち右手の人差し指の動きが強ばってくるはずだ。
 
明日は高校受験の志望校を決める三者懇の日なのだ。
ふと、今まで忘れていたママの顔が頭をかすめ、コウタは着替えもせずにジャージのまま
布団に潜り込んだ。
とっさに浮かんだ期末試験の結果のことを振り払い、頭を空っぽにしてじっと体を縮こまらせていた。
そうしているうち冷え切った体が次第に熱を帯び出してくる。
 ……そのうち眠っていた。
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私評