平成26年4月発行 表紙画 『波切にて』/郡 楠昭


藤田章子     小説 『落ちこぼれの一分』  29頁    戻る

 勤めている会計事務所から給料が振り込まれ、ATMでいくらか引き出しておいた。
ここ暫く身につける物を買わずにいたので、デパートで洋服を買おうと思う。
簿記一級の商業資格を取り事務所に勤めて半年後に親元を離れ、町外ずれの
アパートでくらし始めて十年近くになる。

会計事務所には「先生」と呼ばれる経営者の所長と、六十代前の男性二人、それに女性もいる。
その人達は国家資格を持つ公認の会計士である。それに友美と同じ資格の女性と、
都合六人で事務所の仕事を行っている。

この会計事務所は先代の父親が亡くなり、息子が所長となり跡を継いだのだ。
父の代からの顧客は現在も切れず依頼が続いていた。経営はまずまずで順調なようだった。
中学生の時は落ちこぼれの生徒。高校は偏差値の低い、高校と名がつけばどこでもいいような
学校を卒業したが、専門学校に通い資格に向けて奮起すれば達成できることを経験した。
それは自分にとって貴重だったと思う。

日曜日、車で川沿いの道路を走りデパートの駐車場に停める。
外へ出ると頭上から照りつける太陽で、一気に暑さが沁み込みクラクラしそうだ。
足を早めてデパートの中に入る。館内は閑散としていた。
地方の小さな町にあるこのデパートは、ふだん余り人出もないが、何かの催事がある時は
どっと人が集まってくる。

エレベーターに乗り洋服コーナーを丹念に見て廻る。休日には時々気晴らしにやって来るが、
特に気に入りの洋装店はなく、三階四階を見て廻っていると、やっと買いたい洋服が目に入った。
白い長袖のチュールのブラウスと、上着用のチュニックを選ぶ。
チュニックはシルクで紫と青の色が入り混じった物だが、白いブラウスと合うと思う。
予定額より散在してしまったが、ふだんは慎ましい生活をしているので、自分への褒美だと思えばいい。

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私評